至高の健康指標、VO₂ max:それでも走に奥義(HIIT)が不要な理由

道が強調されている走筋教の紋章 走論

「走」(ジョギング)の目標を定める調査を進める中で、最大酸素摂取量(VO₂ max)という言葉を知った。

話によれば、VO₂ maxは「全身持久力の代表的な指標」であり、
この値は、ランニングの成績のみならず、健康長寿に深く関係するという。

そしてこのVO₂ maxを効率的に高める運動として広く知られているのが、
HIIT(高強度インターバルトレーニング)」である。

となれば、健康長寿を目的とする走筋道においても、
HIITを「走の奥義」として取り入れるべきなのだろうか?

本思索では、
「VO₂ maxとは何なのか?」を整理した上で、走筋道にHIITが必要なのかを考えてみようと思う。

VO₂ maxとは何か?

では、改めてVO₂ maxとは何なのだろうか?

VO₂ maxは以下の式で計算されるようだ。

最大酸素摂取量(VO₂ max) = 最大心拍出量 × 動静脈酸素較差

つまり、「どれだけ心臓から血液を送り出し、どれだけ筋肉などの末梢組織でそれを利用できるか」を示した値、ということになる。

そして、この値が「健康長寿」と非常に強く相関するというのだ。

VO₂ maxと健康長寿の関係

VO₂ maxは健康長寿と密接に関係している。

そのことを強く証明したのが以下の研究。

心肺機能と死亡率のメタ解析(2022)[1]

  • 目的:健康な集団における、心肺機能と全原因、心血管疾患および癌による死亡率との定量的な関係の評価
  • 全原因では62万名以上、心血管疾患では39万名以上、癌では40万名以上のデータのメタ解析
  • VO₂ maxが3.5mL/kg/min向上するごとに、死亡リスクは、全原因で12%、心血管疾患で13%、癌で7%、有意に減少した。
  • VO₂ maxが最高の群は、最低の群と比べ、死亡リスクが全原因で53%、CVDで51%、癌で43%低いことが示された。

他にも、トレッドミル運動負荷試験を受けた患者12万人以上を調査したところ、VO₂ max最高群は最低群と比べ死亡率が80%も低かった、という研究もある。[2]

しかし、これらの観察研究で明らかになるのは、
「長寿の人は、 VO₂ maxが高い」
ということのみ。

VO₂ maxを高めると、実際に寿命が伸びるのか?
を確認するには、介入試験が必要になる。

そして、これを証明した介入試験は2026年2月末時点では見つからなかった

しかし、比較的新しい驚くべき研究を発見した。

VO₂ max神話はどこまで本当か?

それが以下の研究である。

  • メンデルランダム化研究(2024)[3]
    • 目的:VO₂ maxと体組成、身体活動、糖尿病、および長寿との因果関係および方向性の解明
    • 欧州系のゲノムデータ解析済みの100万人規模のデータを用いて、7万人の推定VO₂ maxの測定や50万人以上の身体活動データを用いるなどして調査
    • 先天的にVO₂ maxが高くても、寿命に影響はなく、VO₂ maxではなく「低い体脂肪率」や「活発な身体活動」そのものが寿命を延ばす直接の原因であることが判明した

欧州系限定、VO₂ maxはサブマキシマル試験の推定値、線形な関係を前提としている、などいくつか制限事項はあるようだが、「長寿にはVO₂ maxの値ではなく、適度な運動と体組成こそが重要」と考えて良さそうだ。

しかし。
そうは言っても、VO₂ maxが「適度な運動や体組成」などの優れた指針、であることに変わりはなく、高くて困るものでもない。

となると結局VO₂ maxを効率的に上げたくなる。

そこで頭をよぎるのが、
やはり高強度インターバルトレーニング、HIITである。

HIITは必要か?

一般的に、VO₂ maxの向上には、ジョギングなどの持続的な運動よりも、HIITなどの高強度トレーニングの方が適しているとされる。

やはりHIITも取り入れたほうが良いのか。

この悩みに結論を与えてくれたのが以下の図。

Effects of Exercise Training on Mitochondrial and Capillary Growth in Human Skeletal Muscle: A Systematic Review and Meta-Regression (Mølmen KS, et al. 2024)より引用

これは2024年に公表された論文内の図である。

研究は、ジョギングなどの持続的トレーニング(ET)HIITなどの高強度トレーニング(HIT)、スプリントインターバルトレーニング(SIT)によるVO₂ max向上効果を200件以上の論文からメタ回帰分析を行い調査している。

この研究では、トレーニングの回数や期間を同じ条件に揃えた場合、HITがETよりVO₂ maxをより改善した(12.0% vs 10.2%)としている[4]

しかし、グラフからは長期的に見た場合、ETのみでもHITと同程度のVO₂ max改善が見込めそうである。

熟練のランナーでもHIIT導入で多少VO₂ maxが向上することがあることを考えると、上限はHITの方がやや上なのかもしれないが、VO₂ max自体が長寿に影響するものではないことを考えると、そこまで追求する必要はないように思える。

生涯続けることを想定している走筋道においては、
効率重視で「苦しいHIIT」を導入するメリットはほぼなさそうである。

最近の研究でも、「心臓というポンプを大きく発達させる(容積や筋肉量を増やす)には、短時間の激しい追い込みよりも、低〜中強度のトレーニングを長く積み重ねることが重要である」という結論に至っている[5]

ということで、胸を張ってジョギングを継続できそうだ。

結語

今回は、
VO₂ maxとは何なのか?
その向上を目指すべきなのか?
を科学的な知見に基づき確認してみた。

実は、
HIITという奥義の必要性を確認するために書き始めたのだが、
走筋道においては「VO₂ max向上を目的としたHIITは不要」
という真逆の結論に達した。
(…あのHIITをやらなくても良いというのはありがたい。)

そしてHIITをやらなくても良いということは、厳密なトレーニング強度の測定も不要になり、精密な観測機(スマートウォッチ等)も不要となったことを意味する。

本思索により、走筋道はよりシンプルで誰でも継続できるものに近づいた。

しかし、1つ気になることもある。

上記のグラフから分かるように、VO₂ maxは1年も経たずに上限に至ってしまうのである。
おまけにその測定には観測機が必要となり、測定の条件も厳しい。

近い内に、「走における最適な指標」を探ってみようと思う。

今回はここまでとする。

参考文献

  1. Cardiorespiratory fitness and mortality from all causes, cardiovascular disease and cancer: dose-response meta-analysis of cohort studies (Han M, et al. 2022)
  2. Association of Cardiorespiratory Fitness With Long-term Mortality Among Adults Undergoing Exercise Treadmill Testing (Mandsager K, et al. 2018)
  3. Cardiorespiratory Fitness, Body Composition, Diabetes, and Longevity: A 2-Sample Mendelian Randomization Study (Kjaergaard AD, et al. 2024)
  4. Effects of Exercise Training on Mitochondrial and Capillary Growth in Human Skeletal Muscle: A Systematic Review and Meta-Regression (Mølmen KS, et al. 2024)
  5. Cardiovascular adaptation to training load in endurance athletes: a longitudinal study (Dausin C, et al. 2026)

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