走筋の道は深い。
走(ジョギング)や筋(筋トレ)の最適な量・頻度を検討していると、走筋の道を阻み得る難敵の存在を知った。
「神経系の疲労」である。
これは、筋肉痛などに代表される末梢性の疲労と異なり、自覚が難しい「見えざる疲労」である。
本思索において「神経系の疲労」と呼ぶのは、主に以下の2つである。
- 中枢性疲労:筋肉が元気でも、力が出なくなる
- 自律神経の疲労:交感神経が優位になり、睡眠などに影響が出る
これらは走と筋のいずれでも生じるようだ。
そして厄介なことに、これらは回復に数日単位の時間を要することもあるというのだ。
これは、毎日走と筋を繰り返す走筋の徒にとって「宿敵」ともなり得る。
今回はこれら「神経系の疲労」の実態を調査してみた。
まずは、自律神経の疲労から考えることとする。
走と筋による「自律神経の疲労」
走、つまりジョギングによる神経疲労に関しては以下の論文が参考になる。
自律神経の疲労に必要な回復期間については以下のような報告がある。
- 運動後の心臓副交感神経の再活性化研究(2013)[1]
- 先行研究8件(86名のデータ)を分析し、運動後の心臓副交感神経(自律神経)の再活性化にかかる時間を調査
- 自律神経の回復速度は、運動時間より運動強度に左右される
- 有酸素運動の強度毎の回復時間は以下の通り、括弧内は最大心拍率
- 低強度(82%未満):24時間以内
- 閾値強度(82~89%):24~48時間
- 高強度(90%以上):48時間以上
- 高強度筋トレ(80% 1RM)後には、副交感神経活動は60分程で元のレベルに戻った。
- 運動後の圧反射感受性(BRS)の回復パターン研究(2008)[2]
- 健康な成人男性12人(平均年齢31歳)を対象に、運動後の心血管自律神経調節機能(BRS)の回復過程を調査
- 高強度筋トレ(80% 1RM、12×3セット、4種目、40分)では、BRSは60分後まで有意な低下が持続したが、90分後には元のレベルに戻った。
ということで、筋の自律神経への影響は大したことはないが、走による影響はやや長くなり得るようだ。
とはいえ、通常のジョギングは最大心拍率は80%以下なので、走の後の自律神経の回復も1日以内には完了すると考えられる。
よって、走と筋を毎日交互に行っても特に問題はなさそうである。
もしそれでも気になる者は、観測機(スマートウォッチ)によって、心拍変動(HRV)という自律神経疲労の指標を測定できるものもあるようなので、それを用いるのが良さそうだ。
(我が観測機(Smart Band 8)ではストレス測定の値がこれを反映しているようだ。)
中枢性疲労はどうだろうか?
走と筋による「中枢性疲労」
まずは、走による中枢性疲労について確認してみるとする。
走による中枢性疲労
走(ジョギング)による中枢性疲労に関しては、以下の論文が参考になる。
- 運動後の神経筋疲労の回復研究(2017)[3]
- 100件超えの先行研究に基づいて行われた包括的レビュー
- ジョギングなどの長時間(40~90分程度)の全身運動後には、中枢性疲労が30分経過しても完全には回復していなかった。
- 数時間に及ぶランニングや超長距離レースの後には、中枢性疲労が数時間から数日間持続する。
ということで、40分程度のジョギングであれば中枢性疲労は数時間以内には解消されるものと思われ、あまり問題にならなそうだ。
では筋に関してはどうだろうか?
筋による中枢性疲労
走筋道における行に相当する運動で生じる中枢性疲労は、どの程度の時間で回復するのか。
明確なデータは見当たらなかったが、以下の研究は参考にはなりそうだ。
以下で80%などと書くものは、「最大挙上重量の80%の重さ(80% 1RM)」という意味。
以下の研究は、いずれもトレーニングを積んだ男性10名程度を対象に行われたものである。
- 多関節種目研究(2013)[4]
- スクワット、ベンチプレス、デッドリフトの最大努力トレーニング(最大重量測定 + 92.5%×2回×4セット + 87.5%×3回×4セット)が、その種目や他の種目の挙上速度に及ぼす影響とその回復までの時間を24、48、72時間後に評価・比較した。
- ベンチプレス速度は、どのトレーニング後でも24時間後では有意に低下していた。
- デッドリフト後、スクワット速度は24時間後では有意に低下していた。
- スクワット後は、ベンチプレス速度の低下が72時間後まで継続した。
- 追い込み有無研究(2017)[5]
- ベンチプレスとスクワット両方を、75%で①3セット×5回(非限界)、②6セット×5回(非限界)、③3セット×10回(限界まで)、で比較
- 非限界群では、24時間以内に神経筋機能(バーベル挙上速度やジャンプ力)が回復したのに対し、限界群では48~72時間を要した。
- 神経筋疲労研究(2018)[6]
- スクワット(80%×5回×10セット)、ジャンプスクワット、30mスプリントを行い、「電気刺激で筋肉自体のパワー」、「全力を出している筋肉への電気刺激で、筋肉のパワーを出し切れているか(随意活性化)」を72時間後まで確認し、末梢疲労と中枢性疲労を明確に区別して調査
- 中枢性疲労は24~48時間以内に概ねベースライン付近まで回復したのに対し、末梢疲労は48~72時間持続した。
- 低負荷運動研究(2020)[7]
- 低負荷(30%)と高負荷(80%)の筋トレ(片足でのレッグエクステンション)を3セット、限界まで実施。直後、24時間後、48時間後に最大筋力を両足で測定。
- 非実施脚において、高負荷条件では有意な筋力低下が見られなかったのに対し、低負荷条件では、有意な筋力低下が認められ、その回復には48時間を要した。
…調査が大変であった。
上記報告から以下のようなことが見えてくる。
- 80% 1RMの単関節トレによる中枢性疲労は48時間以内に回復しそう(3, 4より)。
- 低負荷で回数を行う筋トレは、中枢性疲労が起きやすい(4より)。
- 多関節トレは単関節トレより中枢性疲労が強くでやすい(1, 4より)
- 複数種目やっても限界まで追い込まなければ、かなり抑えられそう(1, 2より)
ということで、80% 1RM程度、2セットずつ、非追い込み、を基本とする走筋道の筋トレにおいては、中枢性疲労は48時間以内に回復しそうであり、「筋」から「筋」への影響はあまり気にしなくても良さそうだ。
そして、どうやら、この「中枢性疲労」は「脳や神経の機能が落ちている」のではなく、「筋肉の状態を考慮して中枢がブレーキをかけている」ものである説が有力で、中枢性疲労が回復しきらずに蓄積していく、というエビデンスは今のところないようである。
こんなに調べたが、筋トレの回数や重量が上がっていっているならあまり気にしなくても良さそうである。
結語
今回は走筋の徒の「宿敵」にもなり得ると思われた「神経系の疲労」についての調査を行ってみた。
結果を簡単にまとめると、以下のようになる。
- 自律神経の疲労:筋では90分程度、走では1日以内に回復しそう
- 中枢性疲労:走では数時間以内、筋では2日以内に回復しそう
ということで、走筋道においては、
「あまり気にしなくて良い」
という結論になりそうだ。
ただし、これらは「見えざる疲労」であり、個人差もあると考えられる。
そのため、明らかに睡眠の質が落ちている、挙上重量が減少する、などということがあれば、行の強度や時間を再確認してみる必要があるかもしれない。
実は、「神経系の疲労」により、走筋の道は「破滅の道」なのではないか?などと心配していたのだが、そんなことはないようだ。
一安心。
これで更に自信を持って走筋の道を突き進むことができる。
参考文献
- Cardiac Parasympathetic Reactivation Following Exercise: Implications for Training Prescription(Stanley, et al. 2013)
- Recovery Pattern of Baroreflex Sensitivity after Exercise (Niemelä TH, et al. 2008)
- Recovery of central and peripheral neuromuscular fatigue after exercise (Carroll TJ, et al. 2017)
- Comparisons of acute neuromuscular fatigue and recovery after maximal effort strength training using powerlifts (Theilen N, 2013)
- Time course of recovery following resistance training leading or not to failure (Morán-Navarro R, et al. 2017)
- Neuromuscular Fatigue and Recovery after Heavy Resistance, Jump, and Sprint Training (Thomas K, et al. 2018)
- Lighter-Load Exercise Produces Greater Acute- and Prolonged-Fatigue in Exercised and Non-Exercised Limbs (Farrow J, et al. 2020),



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